ケーブル自体を原因とする音質変化の代表的要素には、凡そ以下のようなものが挙げられます。
直列抵抗(R)
インダクタンス(L)
キャパシタンス(C)
漏洩コンダクタンス≒誘電体損失(G)
これらはケーブルを概念上の回路素子として分解したもので、分布定数回路と呼ばれています。
直列にR・L、並列にG・Cの無限個の集積がケーブルそのものであると解釈されていて、すべて距離の関数として表現されます。
したがって、ケーブルの交換は謂わば回路定数の変更であり、音の変化の原因がここにある、と考えることには充分な妥当性があります。
L・Cは低域・高域通過回路、R・Gは損失と、いずれも伝送にとっての阻害要因ですが、その値は概ねケーブルの機械的構造と物性によって決定されるため、一定程度以下に低減することは不可能です。
しかも厄介なことに、それぞれが互いに反比例の関係にあったり、周波数特性を持ったりするため、変化の値の極端に小さいことと相俟って個別の影響の測定は困難を極めます。
どの要素が「音質の差」=「歪み」に大きく関るかについても、「インダクタンスが問題」とする説や渦電流による実効抵抗の増加分を重視する説、誘電体損失=絶縁材料の素材を重視する説、導体の物性固有の音に起因するとする説など種々様々です。
しかし、これらの要素のうちいずれかが単独で音質を決定するとは考えにくく、単一の原理に集約することは今のところ実現していません。
例えばここに、絶縁体の素材のみが異なる、全く同じ物性、構造のケーブルがあります。聴感上では明らかに音質の違いが認められるにも拘らず、テクニカル・データ上では、僅かに1.6pf/mの容量と0.2オーム/kmの直流抵抗、及び3%の伝送速度の違いが認められるに過ぎません。無論、絶縁材料が異なれば、誘電体損失とインダクタンスにも微量の変化が起きる事は当然です。
問題は分布定数回路が距離の関数である以上、ケーブルの長さが異なれば、この程度の違いは簡単に生まれてしまうことですが、この点は慎重に行えば避けられます。
このケースでの音質変化は、最も小さな指標を扱うと目される渦電流予想でも合理的な説明は難しそうです。まして、入力信号がある一定の保存尺度に収まっていれば「歪み」は認められない、とする従来の伝送の常識からは、こうした測定誤差に近い数値から有意差といえる信号の変化を導き出すことは出来ません。
けれども特定の周波数に起きる微小な擾乱ないし偏差を、ヒトの聴覚がパターンの変化として認識できるとすれば事情は違ってきます。
この場合、私たちの脳は、インダクタンスや容量による干渉はもちろん、本来無視すべきと考えられてきた微小な要素の有無をも判別していることになります。そして、どうやらこうした従来の測定機器には馴染まないパターン認識が、聴覚にとっては普通の在り方のようなのです。
つまるところ音質の変化には多様な要素が複合的に絡んでいる、と考えるのが妥当なところであり、製品の設計時に音質を確定すべき根拠を示すことは現状では不可能です。
当然、ケーブル構造から推定しうる音質も蓋然性の域を出ず、最後は聴感による確認を頼るしかありません。
こうした点を踏まえ、ケーブルの選択にあたっては
  1. インダクタンス、キャパシタンスを相対的に低く保つ、バランスのとれた構造であること。  
  2. 特性の良い絶縁材。  
  3. デジタル、アナログケーブルでは、厳重なシールドと超高域のインピーダンス特性の平坦なもの。  
  4. SPケーブル、電源ケーブルでは、シールドの装備と比較的大きいインダクタンスを持つこと。
などを基準として候補を選び、接続方法も含め、複数のシステムによる試聴を経て決定しています。
*外装の仕様は予告なく変更することがあります。